枯朽
KOKYU | Gastronomic Laboratory in Oshiage
墨田区押上にある、2人の若きシェフ、清藤洸希さんと吉岡翔太さんによるレストラン。
完全予約制・客席は8席、昼の部・夜の部ともにペアリングドリンク付きのコースのみ。
クラシックなフレンチをベースにしながら世界各地の香辛料や茶なども取り入れ、味、匂い、色彩、調理技法をジャンルに捉われずに丁寧に解きほぐし再構築し、「食べる」という行為の解像度を上げる体験を提供する。数年、間借りという無店舗のスタイルで営業していた彼らが初めて持つ自分たちの場所。彼らの食に対する姿勢を見て、その場所はレストランというよりは研究・研鑚の場であるべきだと感じ、Gastronomic Laboratory(食の実験室)をコンセプトとした空間を提案、設えた。
小さな鉄扉をくぐり抜けて中へ入ると、実験場としての厨房を中心にその周りにカウンターが囲む。オールステンレスの厨房に対してカウンターは和紙貼りとした。店内奥の棚には食器や食材とともに清藤氏が蒐集する古物が並び、一つだけ設けた窓からは隣のマンションの生垣を借景している。
30㎡の小さな店内は、茶室のように濃密な空間であり、五感を働かせて食を楽しむための宇宙。亭主が客人のために考え設えた空間で点てた茶を飲むように、いま目の前で調理されたものを過程も含めてまるごと食すことができる。
生の情報に出会う機会が減っていると感じる昨今において、その体験の喜びや驚きを最大限引き出せるような場所になったと思う。
anan 2022年10月19日号 ▶︎web
ELLE 2023年1月号 ▶︎web
扉と押し手
周辺は、小さな下町工場が残りつつスカイツリーの影響でマンションが建ちはじめた新旧入り混じる街並み。
小さな鉄扉をくぐり抜けて中へ入る。鉄扉は清澄白河にある鉄工アトリエのmujicaさんに施工をお願いした。鉄職人の手の跡を残し、風雨に晒されることでゆっくりと錆び、時を重ねていく。
お客さんが最初に触れる押し手はシェフが仁連宿で譲り受けた古材を加工したもの。年月を経て朽ちた古い木塊の一辺をスパリと切り落とし、現れた木の断面をシェフ自らオイルで磨いた。古材の木塊の丸みと直線的な断面が共存し、枯朽という場所を体現する取手となった。
和紙
カウンターは和紙貼りとした。国産の楮のみを使った石舟和紙と黒谷和紙を重ね、柿渋を塗り重ねた上にシェフ支給の食用の竹炭パウダーを塗布した。森下にある森木ペーパーさんに施工をお願いした。
いくつか提案した素材の中でシェフが和紙に大きく興味を示したのは、その組成が木や金属よりも食材に近いからかもしれない。現在、楮をつかった料理をシェフが探究中である。
風景
クローズドになりすぎずシェフもお客さんもリラックスできるように抜け所となる窓を1つだけつくった。隣のマンションの生垣を借景している。昼の部では盛付け台を自然光でライトアップする効果も狙った。既存の引き違い窓を利用しているため開け放つこともできる。店内奥の棚には食器や食材、清藤氏が蒐集する古物が並ぶ。釦屋さんで使われていたと思われる古棚はスパイス入れとして使われている。
枯朽 KOKYU ▶︎web ▶︎twitter ▶︎instagram
シェフ|清藤洸希 ▶︎twitter ▶︎instagram
吉岡翔太 ▶︎instagram
用途|レストラン
敷地|東京都墨田区横川2-13-9 #101
構造|鉄骨造 / 既存建物
床面積|30㎡
設計期間|2022.02-2022.05
工事期間|2022.06-2022.08
内装設計|knof
ロゴデザイン|杉本陽次郎 ▶︎instagram
施工|ファーストハウジング株式会社 ▶︎web
担当|西澤佑二 鈴木亮佑 工藤雅之
天板和紙施工|森木ペーパー ▶︎web
担当|森木しのぶ
エントランス鉄扉製作|mujica ▶︎web
担当|河合広大 岡田直也
厨房機器|タニコー
担当|伊東勝
照明計画|株式会社モデュレックス
担当|吉田剛士 福村健太
写真(1-7,9-15,20)|前川明哉 ▶︎instagram
写真(8,16-19) |杉本陽次郎 ▶︎instagram